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私達の日常生活において、“腰痛”ほど頻繁に発症し、また、多くの老若男女が、苦しめられる病気はありません。腰痛を訴える患者さんの大半は、「整形外科」に行きます。そこで、レントゲン撮影をすると、「骨に異常はありません」、高齢であれば「老化現象ですから治らない」と説明され、湿布や鎮痛剤などをもらいます。そして、「しばらく様子をみましょう」と言われたまま、一向に完全に治らないといった経験者は多いのではないでしょうか。 |
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よく“腰痛”“坐骨神経痛”といわれますが、これは“頭痛”“腹痛”と同じく、正式な病名ではなく、一つの症状の名前です。その原因によって、正式な病名があり、それを、診察によって突き止めてゆきます。 “MRI”等の最新設備の普及とともに“椎間板ヘルニア”と診断されるケースが増えています。手術を勧められる場合もありますが、すぐに手術をせず、数カ月間は、保存療法(手術以外の治療法)で経過を観るのが賢明です。 |
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慢性腰痛や、足のしびれに苦しめられたまま、あるいは、年齢のせいで治らないと、諦めかけている方は、是非もう一度、痛みの原因を明確にしましょう。適切な治療と、生活指導、運動療法をすれば、完全に治癒はできなくとも、痛みなどの症状がとれて、より快適な生活ができます。 |
1、脊椎の疾患 |
青壮年:椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板症、
腰椎椎間関節症(ぎっくり腰)、
腰部筋筋膜症などの軟部組織損傷、
脊椎の先天性奇形(仙骨分裂症など) |
腰椎椎間板ヘルニア |
1、はじめに |
腰椎椎間板ヘルニアは、坐骨神経痛を起こす有名な病気です。発症年令は、青壮年期、20代から40代に、最も多くみられます。人間の腰椎は5個あり、その骨と骨の間に、“椎間板”という軟骨と、靭帯からなるお盤状の輪が、クッションの働きをしています。
過激な運動、肉体労働、腰椎のずれにより、椎間板周辺の繊維が、一部断列したり、あるいは髄核が、飛び出したりする事によって、腰骨の後ろの神経を圧迫します。軽度の場合は“椎間板症”と呼ばれ、繊維性軟骨が完全に脱出して、戻れなくなっている状態のことを、“椎間板ヘルニア”と言います。
膨らんだ椎間板や、脱出した髄核によって、神経が圧迫されると、神経が炎症を起こします。お尻からモモの後ろ、あるいは外側、足の先まで痛みが走り、いわゆる坐骨神経痛の症状が現れます。神経の圧迫程度によって、シビレ、筋力低下、或は、神経の麻痺を起こす場合も、少なくありません。 |
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2、症状 |
主な症状は、腰から殿部、下肢にかけての痛みです。早期の場合には、膝、下肢の痺れを訴えて、受診する場合もあります。 重症の場合は、「腰が健側(痛くない方)へ曲って、真直ぐに伸びない」「夜も背臥位(仰向き)で寝れない為、横を向いて海老のように寝ると、何とか眠れる程度になる」「長時間、腰掛けたり、歩いたりすると、痛みが強くなる」「咳や、くしゃみをすると、腰や足へ響く」などが特徴的な症状がでます。
レントゲン写真では、腰の側弯、椎骨(背骨)間の隙間が狭くなっています。MRIでは、後ろに突出した椎間板が、ハッキリ見ることができます。(写真A・B) |
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(A):重度ヘルニア
この方は、理学療法によって、症状の改善が見られたが、半年で2回、症状が再発し、仕事に早期復帰するため、手術を受ける決心をした。
(B):多発性ヘルニア
この方の場合、手術が困難なことと共に、予後不良が予測される為、保存療法と、神経ブロック療法を併用し、約半年間で、症状が消失した。 |
3、治療 |
椎間板ヘルニアの治療原則は、保存療法(外科手術以外の治療法)が第一です。保存療法によって、約90%以上の患者さんに、症状の改善が得られます。初期治療の約3〜4週間で、最終的な治療効果の予測ができます。半年間の治療により、8割以上に、ヘルニアの縮小、消失がみられ、痛みなどの症状がなくなります。
椎間板ヘルニアが、手術適応になるのは、以下の場合です。
@膀胱直腸障害(尿、大便の失禁)を伴う。
A神経の麻痺や下肢の筋力が著しく低下した。
B保存療法への抵抗(仕事関係で、長時間通院できないなど)がある。 |
4、結論と予後 |
椎間板ヘルニアは、20世紀後半に、一時は、約9割り以上の患者が手術をする時期がありました。しかし、その後、手術の治療効果を冷静に検討した結果、手術療法の適応例が、かなり減少し、今では1割り以下になりました。そして、椎間板ヘルニアの治療は、最初に必ず、保存療法が試みられるという段階に至っています。
注) ここでの保存療法とは、外科的手術以外の治療です。
腰椎椎間板ヘルニアの場合には、安静、牽引、硬膜外ブロック、鍼灸治療などが有効です。
ただ、椎間板ヘルニアに対する保存療法も、そう簡単に治せるものではありません。まず、ある程度長期治療の覚悟が必要です。また、痛みなどの自覚症状がなくなっても、けっして完全に治癒したわけではありません。定期的なケアや、水泳、ストレッチなどの運動を励行し、再発を防ぐことが、最も大事なことになります。 欧米での大規模調査の結果によると、腰椎椎間板ヘルニアは、1年で約6割が、5年で約9割以上が、完全治癒できるとあります。この調査は、保存療法によって、予想以上の好成績が期待できることを物語っています。 |
腰椎椎間関節症(いわゆるぎっくり腰) |
ギックリ腰と呼ばれる、急性腰痛の中で、腰椎椎間関節捻挫は、最も代表的な病気です。 再発の繰り返しや、加齢による、椎間関節(下図参照)の変性が起こり、軟骨の磨耗、消失、関節の周囲の靭帯の緩み、骨の変形などによって、関節周囲に、慢性的な炎症が起こりやすくなります。この状態は、椎間関節症とよばれ、慢性腰痛の大部分に関与しています。 |
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椎間関節症は、重いものを持ち上げたり、無理な体勢をすることによって、腰を支える小さい関節(椎間関節)がずれ、または、亜脱臼を起こすことにより、関節の周囲に炎症や出血、靭帯の部分断列が発症し、急性の腰痛を発症します。また、この時、靭帯などが、関節の隙間に食い込むと、痛みが更に激しくなり、寝起きもできなくなります。 |
治 療 |
ギックリ腰は、鍼治療の一番得意な分野です。 椎間関節症は、受診時には痛みが激しく、簡単な動作もできないケースが多くみられます。しかし、鍼治療により、筋肉の緊張を柔らげ、テーピングで腰を固定した上で、ストレッチなどを行い、関節の間に食い込んだものを引き出せば、その場で痛みが消えるケースもよくあります。但し、一刻でも早く受診することが、予後の分かれ目です。 |
仙骨分裂症 |
1、はじめに |
腰痛で、仙骨と腰椎との真中を圧した時に、痛みを感じたら、先天的に仙骨が分離しているかも知れません。仙骨の分裂は、先天的な奇形で、日本人の約2割にみられます。日常生活上は、特に問題はありませんが、20歳前後に、ちょっとしたきっかけで、ギックリ腰や、慢性腰痛などを発症します。 |
2、症状 |
ギックリ腰などの腰痛と同じく、ちょっとした軽い動作での突然の腰痛、もしくは、原因はよく判らないが、次第に腰が痛くなり、前に屈むなどの動作で痛みが強くなります。ウエストラインより下の、真中を圧すと痛みがあります(ない方もいます)。レントゲン撮影をすると、仙骨正中の融合不全(二分脊椎)がみられます。 |
3、症例 |
31歳 男性 会社員
昨夜、洗面台で前に屈んだ時、突然、腰に痛みを感じた。前に屈んだり、腰を反らすなどの動作で痛みを強く感じ、歩くと腰に響いて痛む。特に前屈は、手が膝の上までしかとどかない。
18歳ぐらいの時にも突然の腰痛に襲われ、以後、時々腰が痛かったが、特に治療はしていなかった。運動は、月に1〜2回ゴルフをする程度。
鍼治療と、運動療法により、治療後は床上10cmまで届くようになった。その後、5回の治療で、ゴルフができるまでに回復。この方もいわゆるギックリ腰の状態で来院。特に、腰の一番下と仙骨の間を押すと 、強い痛みがあり、レントゲンを撮影し、仙骨に先天性の分裂が、確認されました(レントゲン写真参照)。 |
4、対処法 |
変形性腰椎症とほぼ同じ。普段の運動、ストレッチや、治療などで、再発予防が必要です。 |
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高齢者:変形性腰椎症、骨粗鬆症、脊椎管狭窄症、
変性すべり症など |
変形性腰椎症 |
1、はじめに |
年令を重ねるうちに、次第に骨は変形してきます。これは老化現象。しかし、腰痛や、足の痺れがでるのは、変形だけが原因ではありません。今の腰痛が、老化だからと諦めている方、諦めずに、症状の改善を目指しましょう。もちろん、腰椎の変形は、高齢者だけではありません。若い時に、ラグビー、重量挙げなどの、激しいスポーツや、土木作業、配達などの力仕事を一生懸命やった方は、だいぶ腰に負担をかけているので、骨が人より早く変形します。 |
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2、症状 |
中高年での、ギックリ腰、慢性的な腰の痛み、重だるさの繰り返し。足の痺れや、だるさがみられる人もいます。レントゲン撮影により、腰椎にトゲ状や、くちびる状の変形が見られます。
ただ、60歳以上になると、大部分の方に変形はあります。変形している部分が、腰椎からでている坐骨神経に触れていると、触れている側の足に痺れや、だるさなどの、不快感がでるのです。変形があるだけでは、痛みません。 |
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3、病態と対処法 |
変形性腰椎症は、加齢などによって、引き起こされた、脊柱とその周囲の病変を、一括したものです。つまり、腰の変形、椎間板の退化、腰周辺の血行障害、筋肉の疲労などが、重なり合って発症する、複合障害です。 |
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骨の変形はもとに戻りませんが、治療により、腰椎周辺の血液循環を改善し、筋肉のしこりをほぐし、更に、ストレッチなどをすることにによって、腰の可動域が広がれば、圧迫されていた神経、血管などの症状が改善し、痛みと痺れなどの症状も取れます。
ただし、症状が改善されても、この病気の原因は、加齢によるものですので、「完全に治った」と思わず、定期的な治療(手入れ)と、適切な運動による、筋力強化が必要です。 |
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脊柱管狭窄症 |
腰椎椎間板ヘルニアと、腰部脊柱管狭窄症が、神経痛を伴う腰痛の中で、2つの代表的な疾患です。前者は、青壮年期に多く、後者は、加齢による退行性変化(老化現象)が主体なので、高齢者に多くみられます。
脊柱管狭窄症は、骨の変形、或は、変性すべり症などが原因で、腰椎の真中にある、脊髄を通る管が狭くなり、脊椎を圧迫し、末梢神経障害を起こします。(図) |
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症状としては、お尻から腿の後側や、外側、膝の外側、足首にかけての痛み(坐骨神経痛)が多くみられます。神経障害によって、軽い麻痺や、筋力低下(つまずきやすい等)を引き起こすこともあります。足の痛みや、痺れを訴える患者はかなり多くいます。 最も特徴的な症状は“間欠性跛行”です。これは、数分間歩くと、足が痛くなって歩けなくなるが、少し休んだり、屈んだりすると歩けるようになり、またしばらく歩くと、また痛くなるといった症状を繰り返すことです。
下肢の閉塞性動脈硬化症によっても、間欠跛行が起こることもありますが、脊柱管狭窄症との区別は、姿勢の変化によって、痛みが消失するかどうかによります。脊柱管の狭窄がある場合、腰椎が反った姿勢では、狭窄が強まるため(図)、しゃがんだり、手すりに寄り掛かったりしないと、楽にならなりません。一方、動脈の閉塞による場合は、姿勢に関わらず、休めば痛みは治まります。
治療に関しては、症状が軽い場合には、理学療法などで、十分症状がとれます。重症の場合は、手術をするケースもあります。しかし、まず2〜3ヵ月の間、保存療法(手術以外の治療法)で、様子を見ることをお勧めします。自覚症状の改善ができれば、手術を避けることができます。 |
2、内科疾患 |
胃、十二指腸潰瘍、急性膵炎、尿管結石、腎盂腎炎など |
3、婦人科疾患 |
子宮内膜炎、卵巣膿腫、骨盤輪不安定症、 |
4、その他 |
心因性(ストレスなど) |
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